甲状腺疾患について

甲状腺は何をしている?



甲状腺は頚部の気管前面にあり、チョウチョのような形をしています。食事から摂取したヨウ素を取り込んで甲状腺ホルモンを産生します。 甲状腺ホルモンの分泌は、脳下垂体で厳密に調整されています。甲状腺ホルモンは、脳を活性化したり、心臓や消化管に作用したり、新陳代謝を促進させたりします。

甲状腺の病気

甲状腺の病気には大きくわけて、甲状腺機能障害甲状腺腫瘍があります。甲状腺機能障害には、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症があります。 自己抗体陽性の場合は、橋本病、バセドウ病と呼ばれます。甲状腺機能異常があると様々な症状が出現しますので、甲状腺機能を適正に保つように薬物治療が行われます。 甲状腺腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍がありますが、どちらも無症状のことが多く、自分で気づく方はほとんどおられず、健診で指摘されて病院を受診される方が圧倒的に多いです。 甲状腺腫瘍の疑いがあり、不安になりながら受診されますが、多くは良性腫瘍です。悪性腫瘍であっても、甲状腺がんの90%以上を占める甲状腺乳頭がんは、 他の部位にできる悪性腫瘍と比較して低悪性度で、治療により根治できる可能性が高いです(早期であれば97%‐100%の生存率:全国がんセンター協議会 2018)。 しかし、甲状腺乳頭がん以外の甲状腺がんは予後良好とはいえず、中でも未分化がんや広範浸潤型濾胞がん、高細胞型乳頭がんなどの非常に悪性度の高いタイプのものがあり、 熟練の頭頸部外科医が手術しても不幸な結果になってしまうことも多いです。

甲状腺が悪いとどうなる?

①甲状腺機能異常

甲状腺機能亢進症では以下の症状がでます。
疲れやすい、発汗過多、脈拍数が多くなる、動悸がする、息切れがする、手足がふるえる、イライラする、眠れない、微熱が続く、甲状腺が腫れる、 びまん性甲状腺腫大、眼球突出

甲状腺機能低下症では以下の症状がでます。
疲れやすい、汗がでない、脈拍数が少なくなる、体がむくむ、体重が増える、いつも眠い、物忘れしやすい、便秘、筋力低下

潜在性甲状腺機能低下症にも注意が必要です。
不妊症、高コレステロール血症の原因になります。
 慢性的に甲状腺ホルモン分泌が低下して、その結果TSHが高値になりますが、FT4が正常を示す状態です。甲状腺ホルモンが徐々に下がってきますが、 甲状腺ホルモンの過不足に脳下垂体が反応し、TSHを多く産生するようになった状態です。潜在性甲状腺機能低下症は、高脂血症、動脈硬化、不妊症・流産とか かわっていて、治療を行うことで、これらは解消されます。特に、不妊症の約10%は甲状腺機能低下と関わっているといわれ、重要な不妊の原因になっています。

②甲状腺腫瘍

甲状腺腫瘍の自覚症状はほとんどありません。4cmを超える大きなものでは、頸部腫脹、のどがつまるような感じ、嚥下時の違和感がでてくることもあります。 悪性腫瘍であっても同様で、自覚症状はほとんどありませんが、進行してくると、嗄声、嚥下障害が出現します。

甲状腺嚢胞は袋状の構造物の中に、液体が貯留した状態です。腺腫様甲状腺腫は、甲状腺に数個の結節ができた状態です。 これらは甲状腺腫脹以外に何の問題もなく、癌化することもありません。半年に1回程度来院していただき、数や大きさに変化がないかを確認することにしていますが、 治療が必要になることはほとんどありません。濾胞腺腫は 甲状腺にできる良性腫瘍で、日本人には多く発生する病気のひとつです。 無痛性の腫瘤で、緩徐に増大していくという性質があります。甲状腺濾胞がんとの鑑別が難しく、エコー所見、腫瘍サイズ、血液検査、腫瘍の増大傾向を総合的に判断します。
甲状腺悪性腫瘍には、乳頭がん、濾胞がん、低分化がん、未分化がん、髄様がんなどがありますが、最も高頻度なものは乳頭がんで、95℅を占めます。 他の部位にできるがんの中では低悪性で、ゆっくり増殖していき、根治治療を行った後、10年以上経過して再発することもあります。 しかし、乳頭がん以外の甲状腺がんの悪性度は高く、中でも未分化がんは診断した時点からの平均生存率が約5ヶ月といわれています。

検査について

当院では、血液検査、超音波検査、細胞診検査を行います。臨床症状とこれらの検査を組み合わせることで甲状腺の病気を診断することができます。 甲状腺悪性腫瘍が疑われる場合には、滋賀医科大学耳鼻咽喉科、草津総合病院頭頸部外科など近隣の総合病院に紹介させていただきます。

*甲状腺機能障害の検査所見

バセドウ病の検査所見

原発性甲状腺機能低下症の検査所見

橋本病の検査所見


*甲状腺腫瘍の検査所見



 進行した甲状腺悪性腫瘍であれば、腫瘤が周囲組織に癒着して可動性が悪くなる、頸部リンパ節の腫脹がある、声帯が動かなくなるので嗄声(声かすれ)がでる、 嚥下困難感がでる、咳がでやすくなる、といった症状、理学所見があります。甲状腺腫瘍の診断は、良性病変か悪性腫瘍かを鑑別することが重要になってきます。 確定診断は、実際に手術切除して、摘出した腫瘍を顕微鏡で観察することで初めてつきます。甲状腺腫瘍の多くが良性病変であり、また、悪性腫瘍であっても、 その多くが乳頭がんといって生存率が90%以上ある低悪性度の腫瘍です。そのため、甲状腺腫瘤があるからといって、すべて手術切除するというのは手術の危険、 全身麻酔の危険、手術侵襲などを考えると患者さんに不利益になります。医師は、超音波検査、血液検査、臨床経過を慎重に吟味して、悪性腫瘍の可能性を考えていくことになります。

 診断価値としては、超音波検査が有用です。甲状腺悪性腫瘍の超音波検査では、単結節、充実性、内部低エコー、辺縁不整、微小石灰化といった所見が観察されます。 感度は52-81%、特異度は53-83%と報告されており、診断に有用ですが、それだけで確定できるほどは高い精度はありません。 (*感度とは、甲状腺がんの患者さんを正しく甲状腺がんと当てれた確率で、特異度とは、甲状腺がんで ない患者さんを正しく甲状腺がんではないと当てれた確率です。)

 超音波検査で悪性腫瘍が疑われた場合は、穿刺針細胞診検査をおこないます。この検査は、超音波検査で甲状腺腫瘤を確認しながら、 注射や血液検査で使用する針を同じ太さか少し細い注射針を腫瘤に穿刺して、細胞を採取します。疼痛は 軽度で、検査時間は15分ほどです。 時々、甲状腺内に出血を認めたり、甲状腺が一過性に腫脹したりすることがありますので、危険性を説明した上で行うことにしています。 細胞診断は病理専門の先生に依頼します。細胞診検査から得られる細胞量は少量で、この少量の細胞に悪性所見があるかを観察することになるのですが、 これまでの報告では、感度65~98%,特異度73~100%と比較的高い確率で診断できます (*感度とは、甲状腺がんの患者さんを正しく甲状腺がんと当てれた確率で、特異度とは、甲状腺がんでない患者さんを正しく甲状腺がんではないと当てれた確率です。) ただし、残念なことに、甲状腺乳頭がんの次に頻度 が高い、甲状腺濾胞がんに対しては、細胞診では診断がほぼ不可能です。

 甲状腺腫瘍の診断において、血液検査の価値は低いです。TSHは、高値であれ ば、甲状腺悪性腫瘍の罹患率が高くなるという報告もありますが、 現時点では腫瘍マーカーとしての有用性は確立しているとは言えません。甲状腺腫瘍が機能性を 保持するかどうかを評価するために測定すべきではあります。 サイログロブリンは、甲状腺に含まれる蛋白質ですが、濾胞がんと濾胞腺腫の鑑別に有用であるという報告があります。 海外の516例を対象として検討(Hocevar M 1998)では、サイログロブリン500 ng/ml以上で濾胞がんの可能性が高くなると報告していて、本邦では隈病院からの報告で、 910 例もの多くの甲状腺濾胞性腫瘍の検討から、サイログロブリン1000 ng/ml以上で濾胞がんの可能性が高くなることが明らかになっています。(Kobayashi K 2005)

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