嗅覚障害
・嗅覚は、大切な五感の一つです。
私たちは嗅覚により、食事を味わい、過去を想起し、危険物を回避します。
・原因を明らかにします。
細径ファイバーで嗅裂を確認します
基準嗅力検査で残存嗅覚を確認します。
嗅覚障害の原因には、
副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、感冒ウィルス、頭部外傷、老年性変化、先天性などがあります。膿性鼻漏、鼻閉、頭痛といった症状がある場合は
副鼻腔炎が考えられます。風邪をひいた後、鼻汁、咽頭痛などのかぜ症状が治まった後もにおいがない状態が続く場合は感冒ウィルスによって神経が障害されている
可能性があります。特に思い当たる原因がなく、いつのまにかニオイがなくなってしまっている場合は、原因不明嗅覚障害や老年性嗅覚障害の可能性があります。
生まれつきニオイがないという先天性嗅覚障害もあり、その場合は、周囲の人が感じている「におい」という存在が理解できません。
原因診断のために、最も重要なことは問診です。副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎による嗅覚障害では、鼻内視鏡検査やCT検査で容易に診断可能ですが、
それ以外の嗅覚障害は画像検査で異常を認めないことが多いため、問診から原因を推測していくしか方法がありません。
嗅覚障害の検査として
鼻腔ファイバーと基準嗅力検査、静脈性嗅覚検査を行います。鼻腔ファイバーで嗅裂という嗅神経が分布している部分を中心に、
鼻内の観察を行います。(嗅裂は非常に狭い部分です。嗅裂観察に有利なように、当院では、細めのファイバーを導入しています。)鼻腔ファイバーで、
90%の鼻副鼻腔炎を診断することができます。基準嗅力検査では嗅覚障害の程度を調べます。静脈性嗅覚検査は、嗅覚予後を予測することに有用な検査です。
原因疾患
| 主な病態
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慢性副鼻腔炎
| 気導性
|
感冒後
| 嗅神経性
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頭部外傷
| 嗅神経性・中枢性
|
*問診の詳細
思い当たる発症原因、嗅覚障害の発症時期・経過について確認します。徐々に進行する嗅覚障害であれば、鼻副鼻腔炎や老年性嗅覚障害の可能性があります。
急に発症したものであれば、感冒ウィルスによる嗅覚障害の可能性があります。嗅覚障害がいつころから発症したかを明確にすることができれば、
病悩期間が明らかになります。嗅覚障害は比較的長期間回復する見込みがある疾患ですが、原因によっては、病悩期間が長いことから治療が難しい場合があります。
嗅覚障害がどのように変化するかも重要です。アレルギー性鼻炎や鼻副鼻腔炎では、嗅覚が変動することがありますが、嗅神経が傷害されている場合は、
嗅覚の変動がほとんどないことが多いです。異嗅症状というものもあります。本来のニオイと異なる様に感じたり、何もないところで突然悪臭を感じたり、
また、異常に嗅覚が過敏になる場合があります。嗅神経が傷害されている場合で出現することが多いですが、精神的な要因などでもみられます。
味覚障害の有無についても問診します。嗅覚障害を主訴に受診する患者は味覚障害も自覚していることが多いです。
しかし、実際には味覚障害と嗅覚障害を混同している風味障害という患者さんも多いです。既往歴については、鼻副鼻腔炎、頭部外傷の既往がないか確認します。
それ以外には、肝障害や悪性腫瘍、高血圧、糖尿病、統合失調症、てんかん、HIV感染症、ミクリッツ病、ベーチェット病が、嗅覚障害を合併する基礎疾患として報告されています。
また、テガフール、メルカゾール、インターフェロンなど様々な薬剤が嗅覚障害を引き起こす可能性があります。喫煙も嗅覚に幾分か影響を与えます。
長期間の喫煙は軽度の嗅覚低下を引き起こし、喫煙していることで嗅覚を治りにくくさせます。嗅覚障害が日常生活に与える影響についても問診します。
食品の腐敗、調理、食思など食事関連の問題が多いです。また、火災・ガス漏れなど身の危険を感じることやうつ状態など気分への影響へ与えることがあります。
・治療方法を選択します。
副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎では鼻内の炎症により、嗅覚障害になっています。この場合は、治療が奏功して満足いく嗅覚に回復する可能性が高いです。
病態は、におい物質が鼻の奥にある嗅粘膜に到達しないこと(気導性嗅覚障害)が考えられます。長期にわたり、鼻内に炎症があると嗅粘膜にある神経も
一部障害される嗅神経性嗅覚障害も合併します。治療は、
抗炎症作用のある薬物治療が中心となります。嗅神経にダメージがあった場合でも、
治療により鼻内の炎症がなくなり、鼻内の気流が回復することで、神経の回復を期待できます。
感冒ウィルスや頭部外傷、原因不明の嗅覚障害は、
嗅神経の回復を促進するような治療が中心となります。病態としては、嗅神経性嗅覚障害や中枢性嗅覚障害になります。
残念ながら、現在のところ、嗅神経障害に有効な薬物治療はありません。しかし、嗅神経には自然再生する能力があります。幹細胞レベルで失われた嗅神経を再生する
ことはできませんが、残存している嗅神経の自然再生は期待できます。嗅神経再生を促進する方法として、嗅覚刺激療法の有効性が証明されていて、
症例集積研究(医学的根拠は低いですが)では漢方薬の有効性も報告されています。
・回復の可能性について説明します
嗅覚障害の原因、病態により、回復のしやすさが違います。前述したように、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などで鼻副鼻腔に炎症が起こっている場合には、
1-2か月程度で嗅覚が回復してくることが多いです。一方、感冒後嗅覚障害や頭部外傷による嗅覚障害など、嗅神経障害が中心の嗅覚障害は難治性です。
回復に
1-2年と長期間かかり、回復の程度も満足いく程度まで回復しないことが多いです。自身の嗅覚障害が今後どのようになるのか不安になるかと思います。
嗅覚回復過程のどの段階にあり、どの程度まで回復する可能性があるかを説明させていただきます。
*嗅覚障害で初めて診察を希望される患者さんは、診察に時間がかかることがあります。
できましたら、前もって、ご連絡( ☎:
077-516-8733
;9時~12時、15時30分~18時30分)をお願いいたします。