@前頚部腫瘤(甲状腺腫:goiter): |
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甲状腺が全体的(びまん性:diffuse)または部分的(結節:nodular)に腫大した状態。 |
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健常者の甲状腺は全て触知可能であり、横径(甲状軟骨下縁あたりでの計測)は成人女性で2.9〜3.2cm、男性で3.0〜3.3cmほどである。従って、甲状腺を触知しなければ即異常(形成不全または萎縮)といって良い。 |
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上記より大きいものがびまん性甲状腺腫となるが、一般的には嚥下運動に連動する前頚部の腫脹(七条分類1度)を認めるということで良いと思われる。 |
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結節性腫大は、長径1cm以上であれば触知可能であり、深部のものでなければ見える。 |
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留意点: |
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エコー検査が普及し、5mm以下の結節や嚢胞も容易に、かつ高頻度に検出されるが、これらを精査することは一般的には不要であり、数カ月から1年後にエコー検査を再実施して増大の有無を観察するのでよい。 |
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A機能異常を思わせる臨床症状: |
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機能亢進も低下も、典型例では診察室へ入って来たときの様子や顔貌などから容易に診断できるほどである。 |
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低下症が疑われたときには、深部腱反射の弛緩相の遅延を観察することが、他の疾患異常では見られ難い所見であり、鑑別上有用である。 |
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B一般検査データで甲状腺機能異常を考えさせるもの: |
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〔バセドウ病〕 |
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T-cholの低下とAL-Pの上昇が特徴的である。AL-Pは骨型が主であり、長期の機能亢進の結果を示し、破壊性甲状腺炎による中毒症では上昇しないことも少なくない。 |
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AL-Pはバセドウ病で抗甲状腺剤投与後に一時的にかえって上昇することが多いので、薬剤による肝障害と誤られることもあり注意を要する。 |
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留意点: |
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初診時にはバセドウ病患者の約35%にGOT、GPTの軽度上昇を認め、他にも異常値を示すものもあるが、これらは診断上の特異性に乏しい。 |
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〔橋本病を含む低下症〕 |
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高γグロブリン血症があり、これに伴ってZTT(TTT)の上昇、赤沈の亢進が見られる。ことにZTTは住民健診に利用されることも多く、この異常を肝障害と誤られる場合が少なくない。 |
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低下症でT-chol、CPK、LDH(GOT)などが上昇することは良く知られており、これらから本症を疑われる場合も多い。 |
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留意点: |
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なお、CPK以下の筋由来の酵素値は安静によって低下すること、また下垂体性の低下症ではT-cholが上昇しがたいことは注意を要する。 |
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C臨床経過から甲状腺異常を思わせるもの: |
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〔バセドウ病〕 |
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洞性頻脈や心房細動の原因であることは少なくない。入院患者では、脈拍数/体温の比の上昇から体温表上で脈拍の線が体温より1スパン以上上位に位置していることが多く参考になる。 |
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食欲があって体重が急速に減少する場合、悪性疾患よりはバセドウ病または糖尿病を考えるべきである。発症時には1〜2カ月で10Kgを越す体重減少が稀ではない。 |
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〔亜急性甲状腺炎〕 |
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しばしば誤診される。これは疼痛の部位が前頚部に限局せず、側頚部、肩、下顎部、項部、背部などへ放散するためで、脳脊髄膜炎と診断された例もある。本症では、発熱のわりには全身倦怠の訴えが強く、甲状腺中毒症併存のためと思われる。 |
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〔甲状腺機能低下症〕 |
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心嚢液貯留の主要な原因疾患であり、TSHが50mIU/Lを越す場合にはほとんどの例に貯留が見られる。なお、強心剤や利尿剤には反応が乏しく、甲状腺剤の投与によって初めて吸収される。同様に、正球性正色素性貧血も多く見られ、鉄剤には反応しがたい。認知症、浮腫、胃腸障害などの鑑別上も本症が注目される。 |